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満三歳になるのを待ち三十六年四月、晴れて幼稚部に入学できて安堵の気持ちでいっぱいでした。当時、経済状態も悪く、結婚当時から洋裁の内職をしていましたので、往復二時間のバス通学の付添いを、義母がこころよく引き受けてくれ頭の下がる思いでした。教育方針として口話、説話法をとり入れ、絵カードで数や言葉を少しずつ覚えました。小学部に入学したときは、すべてに能力を発揮し文章力を身につけました。特に感の鋭さなどを、義母は自慢そうに私に言ってくれたことを思い出します。
小学四年から、自分で通学できるようになりました。
中学部から高等部にかけてクラブ活動の陸上部で活躍、全国大会で数個のメダルを持ち帰りました。親の不安をよそに娘はどんどん成長しました。これも一重にろう学校の諸先生方や周囲の皆さまのご指導の賜物と感謝しています。
卒業後の就職にそなえて、家の近くにあるタイプ学院に入学して、三級まで進級することができました。
就職担当の先生のご尽力で、市内の印刷関係と銀行の就職と平行して話を進めて、銀行に就職しました。障害者として初の地元銀行へ就職できた喜びは大きく、私ども夫婦もホッとしました。受け入れ側も本人の苦労も、私どもが察する以上に大変だったと思います。
その後、毎年障害者への入行の道が開かれ、それに伴い銀行も受け入れ態勢が整えられたのは言うまでもありません。十二年間の行員生活に終止符をうち、それから間もなく自立を目的に神奈川県の方に旅立って行きました。

 

 

 

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